仕事着

ちょっとしたご縁で紳士服の仕立て屋さんとお話をいたしまして、かねてからの疑問をぶつけてみました。


なんで女性用のスーツって少ないんですか?
晴山とか青山のCMでもリクルートスーツは一生懸命アピールしてますけど、例えば30代40代向けの量販スーツって全然聞きませんよね?
これだけ女性が働くようになってるのに、なぜその人達向けの商品がないんでしょう?



女性用スーツはね、純粋に難しいんですよ。
私のお店でも数年前、積極的に受け付けていた時期があったんですが、最近は難しいからとお断りすることが増えています。
まず第一に、体型。女性の体は男性よりずっと起伏が多いのでそこがまず難しい。
男性も背の高い低い、なで肩怒り肩、お腹が大きい小さい、色々ありますが、女性はそれに加えて胸やヒップ、ウェストの凹凸がありしかも十人十色です。スーツはシワの出来ないように仕立てるのが基本ですが、女性用はそこからして既に男性用より難しい。
量販店ではA体、B体など体型をいくつかのパターンに分けて大量生産していますが、女性用では一体いくつのパターンになるか想像もつきません。


次に、美意識の違い。
スーツは元々が男性の服で、色は控えめ、デザインや模様もおとなしめ、シワが出ないように、というのが基本です。
ところが女性用の服はそうではない。色は華やかに、デザインは大胆に模様ははっきりと、ドレープやカットで色気・動きを出して、と全く違う感性で作られます。
私どものような紳士服店が作ればやはりどこか男性的な、固くていかめしい感じのスーツが出来てしまうんですね。
さりとて、女性用の洋服を仕立てる婦人服の仕立て屋さん、洋装店さんはほとんどが廃業してしまっていてそもそも作る人がいないし、そうした人たちがスーツを作るとおそらくどこかおしゃれ着めいた感じがすると思います。
そういうわけで、オーダーを出して頂いても掛かったお金と時間の割にはご満足頂けるものが出来あがるか保証が出来ないんです。
結局のところ、現代はいくらでも既製品がありますので、その中からお気に召すものを探して頂くのが一番無難ではないでしょうか。



ですって。なるほど。
そうすると、女性用スーツはポケットがなくて不便とか言うのは婦人服の感覚で作ってるからなんでしょうか。「ポケット?デザインの邪魔です。小物は鞄にしまってください」ってことで。


紳士服店も後継者不足、需要不足で先細りする一方だそうですが、女性の仕事着にまつわる悩みはまだまだ尽きそうにありませんね。