真にどうでもいい話

先日某所で「なんで役所が送ってくる書類はA判で統一されてないんだ!」的な書き込みを見かけて、ふと昔を思い出したので書いてみる。


まず、大前提として「公官庁では原則としてA判の用紙を使用している」ということははっきりさせておきましょう。
事実、住民票や各種税の証明書、戸籍関連その他役所で交付される書類は全部A判のはずです。
役場以外でも法務局でとる登記関連の書類も全てA判です。
確かこれは総務省かどこかから「原則としてA判用紙を使用するように」という通達が10数年前に既に出されていたはず。たぶんググれば出てくる。
書類管理上もA判で統一されているほうが便利ですので、内部的にもB判とか特殊規格を書類に混ぜるのは基本的にNG扱いされてましたね。
というか、仕入れる用紙がそもそもA判ばっかりで、B判はごく一部のみ特殊な理由がある用途だけでちょびっと使われてただけでした。


では、A判でない書類とはどのような書類かを考えてみましょう。


ここで、ちょっと考えてみてほしいことがあります。
エクセルかなにかで住所録を作って、100通か200通ほどハガキをプリンタで印刷するのがどれくらい時間かかるかということを。
まあ、時間かかるし面倒でしょ。
オフィスの複合機あたりだと1枚/秒も刷れたらいいほうでしょうか。


100枚くらいなら一般の印刷機でいいんですけど、役所が送る書類は大体数千、数万、時には数十万という単位なんですよね。
10万部のあて名印刷をするのに、1枚/秒で印刷してたら24時間以上かかっちゃう。トナー代もバカにならないわけですよ。
そこで登場するのが業務用(?)の高速印刷機なんですけども、これで使用されるのが「連続帳票」という、ひとつながりの長ーい紙なんですよ。
wikipediaかなんかで見てもらうのが早いですかね。 -> 連続帳票(wikipedia)


高速で紙送りをするために紙の両サイドに穴が開けられてるわけなんですけど、この穴の間隔が0.5インチなんですよね。
だから用紙は必然的にインチ刻みになる。
もちろん用途や書類(帳票)の種類によって用紙の規格は多種多様なんですけども、この紙送りの方向がインチ単位であることは変わりがない。
これがA判でない書類が送られてくる理由の1つだと思いますね。


つまり、
大量印刷のために専用の印刷機が必要 -> 印刷機専用の規格の用紙が必要 -> 機械的な理由で用紙はインチ刻みでしか長さを設定できない
と、おおよそこのような理由なのです。





で、もう一つ別の面から考えてみましょう。
税金とかでミシン目入りの3枚つづりの支払い用紙、見たことありますよね。
あの用紙って、支払いが済んだ後どういう風に役所にたどり着くか考えたことがありますか?


税の場合だと、3枚つづりはそれぞれ「納入義務者」「役所」「支払い金融機関」の3か所で保管されるものです。
この3つに出納印が押されることで「いつ」「どこで」「誰が」「何に対して」お金を払ったかが証明・担保される仕組みですね。


さて、あなたが3枚つづりとお金を銀行の窓口に出して税の支払いをしたら、あなたの手元には3枚つづりのうちの1つ、「領収書」が残ります。
支払いを受け付けた銀行は「受領証」と「納入済通知書」を受け取りまして、このうち「受領証」は銀行で保管します。
そして「納入済通知書」を役所に送り返すわけですが、どのようなルートをたどるのでしょうか。


この辺りは私もぼんやりとしかわかってないんですけど、各自治体には「指定金融機関」とかなんとかいう、要するに役所のお金関連の業務を引き受けてる御用銀行があるんですよ。
役所から送られてくる納付書の片隅に「〇〇銀行取扱」みたいに書いてあると思います。
で、さっきの納入済通知書はこの指定金融機関の読み取りセンターに送られて、機械読み取りされてデータ化されます。
OCRってやつです。
そのうえで、データと読み取り済みの納入済通知書の山が役所に送り返されて、さらに各部署に分配される。
なんかそんな感じらしいです。


機械で読み取るので、当然これも厳密に規格が決まっているわけですよ。
用紙の幅どころか、用紙のどこにどのような意味の数字をどれくらいのブレの範囲で印刷すべきか、印刷の濃さはどうか、とかそういうとても細かい様式があるわけですね。
これもまたA判で作ることができない理由の1つであろうと思います。
余談ですけれど、OCR規格でない納付書も随時発行しますけれど、これはなんと手打ちでデータ化されてたりします。「パンチ作業」と言ってましたっけ。


いずれにせよ、大量にかつ高速に帳票を処理する必要から特殊な機械が必要で、そのために用紙の規格が限定されてA判にそろえることができないのだ、とそんな理由があるのだということですね。
もちろん「昔のやり方を引き継いでいるせいで、今更A判にそろえるのがだるいめんどい」とかそんな理由の場合もあるんでしょうけれど。


そもそも役所の最優先事項は「住民にとってのわかりやすさ」「住民にとっての扱いやすさ」じゃないからねえ。